経済効果とは、ある出来事や政策などで発生する経済的な影響のことです。一般的には、産業連関表を用いてその効果を算出しますが、通常は経済にプラスの影響を与えた時に使う言葉です。 経済効果を分かりやすく説明するために、2021年に開催された東京オリンピックを例に挙げて考えてみましょう。オリンピックでは、海外からたくさんの選手や関係者が来日して数々の競技が行なわれます。そのためには膨大な準備が必要となり、たくさんの費用が発生します。例えば、競技を開催するための大規模な施設が必要になりますので、施設を新たに建設したり、今ある既存の施設を改修または増設することが求められます。その際に使用される資材や備品は、オリンピックが開催されることに伴って購入されますので、オリンピックがもたらした経済効果と言えます。また、オリンピックを円滑に開催するためには大勢のボランティアが必要となりますので、ボランティアできる人を募集し、必要な教育や訓練を施すことも必要です。さらに、オリンピックを開催する前に、数々のプレイベントを行ない、組織や施設の点検や検証を重ねます。そのための費用もオリンピックの経済効果となります。オリンピックが始まると、実際に競技に参加する選手や選手をサポートするスタッフ、選手たちを応援する家族やファンの人たち、テレビ中継などのメディアの関係者、オリンピックを協賛している各企業の関係者など、大勢の人が来日します。その際に彼らが宿泊するホテルや移動に用いる交通機関は、オリンピックという出来事のために発生した特別な需要を賄うためにサービスを提供します。また、オリンピックの記念品や日本のお土産を購入する人たちも少なくありません。これらもオリンピックが開かれたことに伴う経済活動となり、オリンピックの経済効果の一部となります。 また、これらの直接的な経済効果だけではなく、オリンピック開催後も続く間接的な経済効果があります。例えば、東京でオリンピックが開催されたことが世界中で報道されることにより、東京あるいは日本の知名度はますます高くなります。それに伴い、実際に行ってみようと思う人が増え、その後のインバウンド需要が高まることが見込まれています。さらに、これまであまり知られていなかったスポーツがオリンピック種目として行なわれた様子を見て興味が深まり、そのスポーツを観戦に出かけたり、自分でそのスポーツを始めるようになることもあるでしょう。このように、オリンピック開催という一つの出来事で、様々な影響が、東京だけにとどまらずに日本中あるいは世界中に広がっていき、そのことで経済活動が行なわれることにより、膨大な経済効果が生まれます。東京オリンピックは、新型コロナウイルス感染拡大のため、開催が1年先送りされ、いくらかのマイナスの影響があったと考えられていますが、関西大学の宮本勝浩名誉教授は東京オリンピック・パラリンピックの経済効果は約6兆1,442億円あったと算出しています。 このように、ひとつの出来事が原因となって、数々の産業にその影響が波及していきます。経済効果を算出するためには、波及していくすべての影響を合計します。総務省は、産業間の取引関係を調査した「産業連関表」というものを5年に一度改定して発表しています。その表を用いて、産業全体のデータから具体的な数字を出すことができます。この「産業連関表」は、1936年にロシア生まれのアメリカ人ワシリー・レオンチェフにより考案されました。この表は、産業連関分析による経済予測などについて精度の高さと有用性が認められるようになり、現在では広く世界中で使われています。産業連関表により大量なデータを系統的に整理することが可能になったため、この経済効果の算出だけではなく、外国貿易の分析など様々な適用が試みられています。ちなみに、考案者のワリシー・レオンチェフは、1973年にノーベル経済学賞を受賞しています。ただし、この経済効果の値がどれほど正確かということは、しばしば論争の種となっています。この値は計算ではじき出される推定値であるため、計算する人や団体によってバラツキがあるというのは事実です。例えば、先ほどの東京オリンピックの経済効果についても、東京都や民間シンクタンクなどが様々な試算を発表していますが、その金額は約7兆円から32兆円まであり、かなり差がある結果となっています。オリンピックの誘致に関係していた団体にとっては、経済効果は高く費用対効果の面からみても開催した意義は大きかったと説明したいという思いが働くのは自然なことでしょう。逆に、オリンピック開催に否定的だった人たちは、実際はそれほど大きな経済効果は期待できないと主張するはずです。そのため、発表される数字にはある程度のインセンティブやバイアスがかかっている可能性があると見るのは実際的なことです。また、経済効果の算出に「産業連関表」が用いられているということも、はじき出される数値が必ずしも正確ではなくなる理由の一つです。なぜなら、「産業連関表」はレオンチェフ型生産関数を前提にしているため、「規模の経済」という考え方(事業の規模が大きくなればなるだけ効率が上がり、コストが下がる)が反映していません。このように、いわゆる「経済効果」として語られる数字はあくまで推定値であり、鵜呑みにしてしまうことは危険だと言えます。