農業は経済効果があるのかがわからずに興味を持っている方もいるでしょう。産業では付加価値を創出することで経済効果を生み出すのが一般的です。第二次産業や第三次産業では当然の考え方ですが、第一次産業の農業では必ずしもこの考え方を直接的に適用できるわけではありません。ここでは農業の経済効果について詳しく解説したうえで、どれくらいの効果をもたらしているかを紹介します。
#農業の経済効果とは
農業の経済効果とは農作物や畜産物の生産に伴って発生する価値の合計額です。農業では米や野菜、果物などの栽培によって、価値のある農作物を生産して経済価値を生み出しています。一般的には農作物だけでなく、肉牛や乳などの畜産物も含めて農業の経済効果が評価されています。農業の経済効果にかかわる要素をまずは一通り見ていきましょう。
・農作物や畜産物の生産と販売
農作物や畜産物を生産すると経済効果が生まれます。販売によって取引先の企業や消費者との間で金銭のやり取りが発生するからです。農業による最も直接的な経済効果は生産と販売です。
・食品工業における加工食品の生産
農作物や畜産物は食品加工会社によって加工されることがよくあります。食品加工会社が農作物や畜産物を購入してレトルト食品やインスタント食品、缶詰や瓶詰などの加工食品の生産によって付加価値が生み出されます。
・卸売業や小売業での購入と販売
農業の経済効果には卸売業や小売店が深く関わっています。農家が直接消費者に米や野菜などを販売することもありますが、一般的には卸業者を介して小売店に届けて消費者に販売するという流通経路になっているからです。卸業者による中間マージンや小売店における利幅の確保によって販売価格が上がり、消費者の支払額が増えます。
・飲食店の経営
農作物や畜産物は飲食店でも利用されています。レストランやバーなどで農業生産品が調理されて供されると付加価値が生まれます。広い意味では飲食店の経営によって雇用が確保されたり、店舗の維持管理をする費用が発生したりするのも経済効果です。
・肥料や農薬などの農業に必要な資材の生産
農業を営むためには肥料や農薬などが必要です。農業に必要な資材の生産によって価値が生み出されます。飼料や農業機材の生産と販売も農業による経済効果をもたらしています。
・生産物の流通や運送
農業によって生産された農作物や畜産物はその場で消費されるわけではありません。卸業者などによって流通させることにより消費者の手に届くようになります。トラックや貨物列車などによって運ぶ必要があるため、運送による経済効果もあります。
#農業の経済効果のデータ
農業の経済効果は多岐にわたっているため、どの範囲まで考慮するかによって経済効果の大きさが変わります。わかりやすい指標としてよく用いられているのが農業総産出額です。農業総産出額とは農業や畜産業によって生産された農作物や畜産物の売上と、その加工によって生み出された加工農産物の売上を合わせたものです。農業による経済波及効果を広く加味しているわけではありませんが、農業の経済寄与を考えるうえでわかりやすい指標として用いられています。
・日本における農業総産出額
日本では農林水産省によって毎年の農業総産出額が調査されています。2020年の調査結果では農業総産出額は8兆9,370円でした。前年の2019年では8兆8,938円だったため、微増した結果になっています。日本における農業総産出額はおよそ8.5兆円の状況が続いています。1990年前後には11兆円程度の規模がありましたが、稲作の制限や米の輸入解禁を受けて米の農業総産出額が低下し、8.5兆円前後で安定する状況になっているのが現状です。
・農業総産出額の多い部門
農業の経済効果の大きさは部門によって異なります。農業総産出額に基づくと、最も大きいのは野菜です。2019年のデータでは2.1兆円に上っていて、農業総産出額の4分の1ほどを占めています。生産の規制などの影響を受けている米が野菜の次に続いていて、1.7兆円ほどの規模になっています。果実は8,399億円、肉用牛が7,880億円、生乳が7,628億円で、野菜と米の経済効果が大きいのが日本の現状です。
#農業による経済波及効果
農業による経済波及効果は視野を広げるとさまざまなものがあります。地域ブランドの農作物や地元の伝統野菜などによって地域の魅力を高め、観光旅行の促進を図ることも多くなりました。農業体験のサービスを提供する農家も多くなり、農業に関連するビジネスの売上も増加してきました。波及効果を考えると農業の経済への影響力が大きくなっています。
#まとめ
農業は農作物や畜産物の生産によって多岐にわたる経済価値を生み出しています。農業総産出額は8.9兆円程度になっているため、日本全国で見ると大きな価値を創出している業種です。農作物や畜産物はそれ自体に価値がありますが、加工によって新しい価値を付与できるのも特徴です。加工食品の生産では輸送の必要性も高まるため、農業を起点とする産業全体を見ると農業は大きな経済効果をもたらしています。