5Gの経済効果は国ごとの規模でみるのか、世界規模でみるのか、どの程度の期間でみるのかで大きく異なってきます。
規模の大きさでは英IHSマークイットの推計が有名です。
35年までに世界で13兆ドルの経済価値が生み出されるとされていて、その3分の1は製造業からもたらされるとされています。
工業関連のスマート化で生産性が向上することが大きな要因で、遠隔管理が容易になる他、材料と生産状況の紐づけが容易になり、管理コストなども減ると見られているからです。
日本では2016年4月に総務省がより具体的な各分野への経済効果をまとめ、公開しています。
農業では4268.2億円、交通・移動・物流で21兆円、スマートシティにおける経済効果2.5兆円、建設・土木における経済効果は2700億円、エンターテインメント、ゲーム、観光における経済効果は2523億円、スマート教育導入による効果は3230億円、医療・介護・健康分野で5.5兆円、ショッピング、金融、決済分野で3.5兆円、スポーツ・フィットネス分野で2373億円、工場・製造・オフィス分野で13.4兆円、他にも行政や生活にかかわる分野での数字をチェックすることができます。
ただし、それぞれ研究機関などの調査結果をもとにしていて、国内全体ではなく一部のみのデータや、一部事例をもとに試算したものになっている点に注意が必要です。
経済効果を導き出す機関自体にも大きな差があるためそのまま引用することは危険なものの、年数などのスケールを大きくする、もっと詳細な活用事例が増えれば経済効果はさらに増える可能性があります。
将来的に実用化されるであろう技術や、先進事例など含んだ経済効果を調べなおせば、さらに数字が膨らむ可能性があるのです。
実際に常に研究が進んでいる分野であり、当初の推定よりも進んだ事例が生まれているケースや、実用化のハードルなどが見えた面もあります。
例えば、教育のIT化がすすみ、遠隔授業などが増えた結果学生同士のコミュニケーションの機会が減り、メンタルヘルスの面で課題が見つかった事例などもあります。
個人によって差はあるものの、人と接触せずに孤独な環境で勉強をすることにストレスを感じる人も存在し、効率化だけでは片づけられない課題が見つかっているからです。
雑談などによって生まれるアイディアの広がりや、価値観の違う人との会話によって生まれる視野の広がりなど、単純な効率化では無視されがちな部分があるのもポイントです。
リモートオフォイス中心から顔を合わせる直接勤務に切り替える企業なども存在し、5G化に対応して人間がどのように合わせていくかと言った課題も見えています。
こういった課題の解決や、ネガティブな面を織り込んでより正確な経済効果を導き出すのか、それとも新しい技術の発展などをもとに経済効果を導きだすかでも大きく異なる数字が出ることになります。
代表的な数字、参考にする数字が、いつ、どの範囲で計算されているかをチェックすることも大切で、情報の参照先をあやまると古く、信頼性が低いデータになりかねないことにも留意する必要があります。
前述の総務省のデータは個別にデータの参照元や参考モデルが提示されていて、数字の根拠を確認することが可能です。
計算モデルに疑問がある場合は、元のデータを確認するなどさらに踏み込んだ懸賞も可能になっています。
しかし、情報の発信元が分からない数字をベースに様々な資産を行ってしまえばそれだけ実態との乖離が生じやすくなります。
様々な研究機関が持続的に研究を行い、様々なデータや論文を発表し続けていることを前提に、新しいデータは調べなければ手に入らないこと、データのみを鵜呑みにしない意識が求められます。
また、先進事例が存在しても、そのまま別の場所にあてはめられないケースもあります。
わかりやすいのがカーシェアリングなどの分野です。
人口の多い場所であればカーシェアリングを行うことでかなりの経済効果を見込むことができます。
効率的な人の移動と効率的なものの保有が、人件費や燃料費の節約をもたらしてくれるからです。
しかし、過疎化が進む地方にあてはめた場合は事情が大きく変わってきます。
そもそも人口が少ないだけでなく、地方では家と家が離れていること、それぞれの移動目的がバラバラで一部分だけでもシェアをするということが難しいケースも出てくるからです。
仮にシェア自体がうまくいっても、移動距離が長くなればそれだけ効率性は落ちます。
この場合は公共交通網に応用して、予約制で自治体が車を走らせるなど、工夫をした方が効率的になるケースも考えられます。
経済効果の試算は人口や経済規模から計算されることが多く、こういった地域事情を無視せざるを得ないのが現状です。
より細かなデータ、正確なデータなどが欲しい場合は計算・統計の手法を変えるなど、データのとり方から考える必要があります。
人口が少なすぎて5Gの設備投資とリターンが見合うかという地域の課題が見える可能性もあるため、あくまで大まかなもデータ・指標であることを忘れないようにすることが大切です。