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IT社会がアメリカ経済に与える影響について

1.はじめに



第一章においては、「IT社会がアメリカ経済に与える影響について」という題材を考察するにあたり、「アメリカとITが結びついていった理由」を歴史的背景から考察し理論づける。

第二章においては、「IT」という産業に焦点をあて論を進めるものとする。

また情報を調べていく中で「生産性」という単語が頻出するが、まずは本論を進めるにあたり「生産性」の定義を図っておく必要がある。公益財団法人 日本生産性本部によれば「「生産性(Productivity)」とは、投入量と産出量の比率を表し、投入量に対して産出量の割合が大きいほど生産性が高いことになります。投入量としては、労働、資本、土地、原料、燃料、機械設備、などの生産諸要素が挙げられる」とある。
つまり「生産性が高い」ということは、引いては「コスト削減」、「利益率の向上」というようなアウトプットにも繋がってくるのであり、企業活動ということで言えば、生産性の管理不在は、社員の評価をすることとも結びついてくるであろうし、利益が多く残るという点では「給料の上昇」も見込むことができるであろう。また「利益率の高さ」は「安定」の指標にもなる。さらに上場企業のようにIR資料が公表され、株主総会等が行われるのであれば、「利益率の高さ」は投資を仰ぐ有効な指標にもなる。
つまり企業活動における「生産性」とは非常に重要な概念を持っており、「生産性の向上」とは重要な役割を果たしていく。これら生産性の向上によって資本主義社会の中に生きる企業は多くの便益をこうむり、それら便益は社員、株主等のステークホルダーにも派生していく。
さらに言えば、資本主義社会は企業を母体として動いており、それらを取り巻くステークホルダーが、その企業活動に直接影響を受けるシステムとなっているため、企業活動による影響範囲は広い。また資本主義が確固として存在している国、それらシステムが確固として適用されている国ほど影響範囲は大きくなるといってもよい。なぜならば多くの国民が企業活動のステークホルダーとして携わっているからだ。それ故に企業活動の収益向上がもたらす便益の範囲は広く、そして強く求められる。そしてそれらを達成するために「生産性の向上」とは重要な目標となるのである。

「生産性」の重要性について述べたが、それはあくまでも「生産性の向上」が及ぼす影響についてであり、「生産性の低下」ではない。つまり資本主義国家において「生産性の低下」は防ぐべき事象であり、もしその傾向があるのであれば、いち早く対処すべき課題なのである。
ここで「生産性」という概念を改めて理解しておく必要があった理由として、本論を進めるにあたり、まさに核となる概念であり、その理解なしでは情報を考察していくことは不可能であると考えたからだ。
それ故に上述した「生産性」に対する考え方を基に本論を進めていくこととする。


2.アメリカの産業別GDPの推移からの洞察



 ここでアメリカの産業別GDP(国内総生産)の推移についてふれておきたい。

1948年~1997年におけるGDP産業別推移表(OECD Productivity Database 1948年~1997年)の中、アメリカ産業の中で大きな割合を占める業態をマークしたところ「Manufacturing(製造業)」と「Finance, insurance, real estate, rental and leasing(金融、保険、不動産、レンタル、リース)」といった業種がアメリカGDPの多くを占めている。
1987年にかけて両業態共に数値は上昇しているが、当初製造業が圧倒的な割合比率を占めているものの、金融、保険、不動産、レンタル、リース業は、最終的に1986年から製造業のGDPを追い抜いている。
その一方で、「Employees(従業員)数」はどうであろうか。(OECD Productivity Database 1948年~1997年)
これに関して言えば、他業種に従事する人数も増加していることは事実だが、上記の比較の観点からすると、圧倒的に「製造業」のほうが多い。しかし、金融、保険、不動産、レンタル、リース業は「Employees(従業員)数」が増加傾向にあるものの、製造業は1980年~1994年にかけて減少傾向をたどり、そして1995年~1997年にかけ、再度増加傾向に戻っている。鉱工業における資源の減少や、その他外部要因による市場構造の変化等による収益の減少に伴った従業員の減少が見受けられるというような市場特性の変化が影響を与えたという可能性も勿論考えられるのだが、上記大きく分けた2業態がアメリカ全産業GDPに大きく貢献している産業である仮定するのであれば、その収益の増加、減少による経済効果は極めて大きく、それによるステークホルダーは多いはずである。尚且つ金融、保険、不動産、レンタル、リース業においては、生産と共に従業員の増加といった比例傾向が見受けられるにも関わらず、製造業における生産の増加と従業員の減少といった一時的な傾向は何か背景がなければ成立しないのではないだろうか。
さらに進めるとしてその後はどうなっているのだろうか。(OECD Productivity Database 1998年~2014年)製造業の生産は2008年~2010年に減少傾向が見られるものの、基本的には増加傾向にある。またその一時的な減少傾向は、金融、保険、不動産、レンタル、リース業だけでなく、大半の産業においても同じ傾向が見受けられる。ここからアメリカ全産業の関わる重大な経済情勢が存在していることを示唆している。*ここはリーマンショックが関連していると仮定するがここでの深堀は割愛する
さらに先ほど述べた「Employees(従業員)数」であるが、1998年から2014年のデータにはその指標が存在せず、「Compensation of employees(雇用者報酬)」という新たな指標が採用されている。これはいかに労働者に収益が配分されたのかということを含んだ指標であるが、1997年までのデータが存在しないため、上記で見受けられた「製造業における1980年~1994年の従業員の一時的な減少」と照らし合わせた洞察ができなくなっている。


3.アメリカの製造業



 上記において著者はアメリカの製造業における1980年~1994年にかけての従業員の減少傾向を考慮した。本章においてその背景をひも解いていきたい。


日本銀行調査統計局2015年3月発表 
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron150309a.pdf
上記はアメリカの製造業における収益率と輸出のシェアを各国と比較して表したグラフだが、まず左図
から分かることは収益率の低下が著しいことである。既述の1980年~1994年という生産の一時的減少傾向の観点と合わせると、その間は確かに減少傾向であり、1995年周辺、2000年過ぎの急下降まで増加傾向であり、その急降下以降は少しずつ収益率を伸ばしているように見える。さらに右図、輸出の世界シェアという項目で見ると、圧倒であった製造業における輸出のシェアも右肩下がりとなり、2010年以降は中国に抜かれている。シェアと同時に収益率も減少という傾向は、アメリカ製造業だけでなく、アメリカ全GDPの中でも高い割合を占めることから、かなりの多くのステークホルダーへの影響とそれに対する懸念が存在したはずである。さらに1980年代後期には日本はアメリカの輸出シェアに迫る拡大を実現している。冒頭にも述べたように、資本主義国家において「生産性の低下」は防ぐべき事象であり、もしその傾向があるのであれば、いち早く対処すべき課題となるからである。
しかしこのグラフからもう1点着目したいことは、輸出の世界シェアが右肩下がりに減少する中で、90年半ばから収益率が増加し、2000年過ぎの急降下以降、更に収益率を高め、上昇傾向が見受けられるということなのである。


また1980年~1990年代半ばのアメリカ製造業における生産性の現象を論じる上で、著書が考慮したことは「貿易依存度」という指標を用いることだ。仮に1980年代までアメリカが製造業において海外への貿易依存度が高ければ、各国との競争激化の中でその地位を失い、製造業全体に生産性、収益面での影響があるとも考えられる。しかしグラフからも理解できるように、グラフ内4カ国の中で輸出入ともに、欧州に比べアメリカは極めて依存度が少なく、「貿易依存度は強くない」と明言できる。


年次経済報告:経済効率性を活かす道 昭和57年8月20日 経済企画庁
(http://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/wp-je82/wp-je82-02401.html)

ここから、1980年代までのアメリカ製造業の経済は国内を基にまわっているということであり、海外との貿易関係の中で生産を減少させるような原因はこの時点では見当たらないということができる。

年次世界経済白書:政策協調と活力ある国際分業を目指して 昭和62年 経済企画庁
http://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we87/wp-we87-00201.html
しかし「貿易収支」という観点で見てみると、アメリカは赤字へと大転落しているというデータがある。
貿易収支、経常収支ともに1980年あたりからかなりの勢いで下落しているのだ。
ここにはイランの石油販売止めによる「オイルショック」、そしてそれによる石油価格の高騰が収益圧迫を生みだしたと一要因と考えられるのだが、「製造業」の動向だけに囚われず、あるマクロ要因でアメリカ経済全体が影響を受けそれにより「製造業」も影響を受けたというように捉えることにより骨格が見えてくることは理解できる。
但し、どのような業種業態が国内に存在し、またどのような産業に強みがあり、それらがどれくらいの比率で全産業のGDPを占めているのか等の各国事情によった、マクロ要因による影響範囲も異なり、さらにはGDPへの影響の大小も異なるということは頭にいれておきたい。
また、外部要因による市場環境の変化(オイルショックのような)により、各国それぞれが影響を被ったとしても、「各国が影響しているのだから待てば状況は勝手に改善される」ということではないのであるから、各国がそれぞれ対策を講じてきたことは予測できる。
そして何よりも上記の指標等の情報を加味し、それを結びつけるのであれば、アメリカの製造業の世界輸出シェアは年々減少し、共に収益率も90年代半ばまで加速的に減少、さらに国内全体の貿易赤字は1980年代初期から急激に拡大。そして製造業はアメリカにおいてはかなりの割合比率を占める産業であることから、ステークホルダーも比例してかなりの広範囲となる。つまり1980年代初期から1990年代半ばにおける製造業の従業員減少は、生産性の向上等による収益性の改善が実現したコスト削減という意味合いではなく、「そうせざるを得なかったコスト、従業員の削減」ということになってくる。
アメリカで起っていた製造業の輸出シェアの低迷(他国の追い上げ等による)、貿易赤字の拡大、全産業へ寄与率の高い本業態における収益率の減少、そしてそれによるステークホルダーへの被害の拡大、さらに外部要因としてのオイルショックによる更なる収益モデルの崩壊等の連鎖反応によって、国内状況は右肩下がりに不況へと導かれていったのだ。
つまりこれらから理解できるように、アメリカは「収益率を改善させる対策」を講じることを余儀なくされた状況に立っていたということが出来る。

ではアメリカはどのようにして収益を改善する試みを講じてきたのであろうか。そしてまた、それら対策によってどのよう成果を得てきたのであろうか。


4.アメリカの対策(ヤング・レポート、メイド・イン・アメリカより)



上記のような理由からアメリカが行った経済政策を考察していきたい。
著者が述べた1980年代初期から1990年代半ばという期間においては、同国にて当時の大統領レーガン氏が1985年に大統領産業競争力委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)」を発足させ「Global Competition The New Reality(ヤング・レポートと称されている)」を発表している。同委員会は当時ヒューレット・パッカード社の代表であったJ.A.ヤング氏を委員長として招き発足されたものであり、同レポートの内容としては「製造業の競争力低迷」がアメリカの産業力と比例しているということを提言し、本産業の改善を主としたものである。またそれら推進によって、国民の収入維持、改善も目的とされている。そして改善のためには、「新しい技術の創造と実用化、そして保護」「資本コストの低減」「人的資源の開発」「通商政策の重視」といった項目の重要性をあげている。
当時のレーガン大統領が実体経済で起きている問題に直視して発足させたという状況が想像できるが、「新しい技術の創造と実用化、そして保護」の内容として、研究開発税制の優遇措置の拡大、共同研究に関する独占禁止法の障壁撤廃、知的財産の保護強化、赤字の解消、政府・産業界・労働組合との間の実効性ある対話等の提案が行われる等、産業保護していくための知的財産、つまり言い換えれば模倣品の氾濫、そしてそれらによる収益の圧迫等を防ぐための法整備の促進が見受けられる一方、政府、産業、労働組合間の組織的な縦横のコミュニケーションの促進と改善の必要性も訴求していると見受けられる。

そして、1985年に発足された大統領産業競争力委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)」で発表された「Global Competition The New Reality(ヤング・レポート)」の動きは拡大化され、4年後の1989年においてマサチューセッツ工科大学 産業生産性委員会による「Made in America (メイド・イン・アメリカ)」の発表で更にマーケティング観点が付与されている。
これは先に述べた日本の海外輸出シェアにおいて80年代後半にアメリカに迫る勢いがあったことの背景理由も深掘りされており、また本レポートには日本が誇る大手自動車製造企業であるトヨタ自動車株式会社の生産過程に関する事項も記述されており、執筆責任者のリチャード・レスター氏は日本、アメリカの向上200社を超える現場取材を行っているのだが、その中でトヨタ自動車株式会社の生産過程に関して、「無駄のない生産工程と人的資源の有効活用による生産性の高さ」について賞賛している。つまり生産性を高めるためには、「生産工程、過程に生じる無駄を排除することで、生産性を高めることの重要性」を説いているのだ。
これらより、「知的財産の強化」「企業と政府、業種間、組織間の縦横なコミュニケーションの実現」「生産における無駄の排除による生産性の向上」といったことが重要なキーワードとして浮かび上がる。
そして上記時期にアメリカはこれら改革推進によって徹底的なる自国製造業モデルの見直しを図ったと同時に、成功例の徹底分析、解析によって成功モデルを理論化させることが出来たのではないだろうかと著者は考える。
上記の年代の少し前になるのだが、アメリカで行われた対策として、「バイ・ドール法 1980年
(特許・商標改正法)の成立」による知的財産の所有権の帰化による開発力の蓄積と継続の支援や、
「Small Business Innovation 1982年(中小技術革新研究法)の成立」による政府の産業開発支援の存在等、1985年の大統領産業競争力委員会発足以前に、本委員会で取りきめられた事項の内容に関する取り組みはなされてきている。このことからアメリカは時間をかけ、投資的、長期的な視点(もしくは不況の兆しを察していたのかもしれないが)によって産業の創出を促進させるシステムの下地作りを行っていたということもできる。またそれら改革の推進によって国内産業の活性化を信じていたという見方すらも可能だ。先に述べたような「収益率を改善させる対策を講じることを余儀なくされた状況」において、1985年にプラザ合意によりアメリカのドル高を是正する金利政策による状況改善は大いに存在しているとは考えられるのだが、水面下で産官学の連携による産業モデルの徹底改革が進められていたということも事実として存在している。
また「産官学のシームレスなコミュニケーションの推進、また業種間、組織間のコミュニケーションの推進」「徹底的な現場分析による生産過程における生産性の向上の推進」というように、情報伝達の方向性を見直していると同時に、スピーディーな生産が生産性の向上の鍵となっているというような見解を導いているようにも見受けられる。


5.アメリカの製造業の躍進‐「インフォメーション・テクノロジー(IT)」が拡がった理由



著者は先ほどまでアメリカにおける産業(特に製造業)の苦戦の歴史とその対応策(広義)、そしてそれらから見え隠れする政策のコンセプトを各情報から結び付けてきた。しかし、ここである疑問を投げかけたい。それは1985年に大統領産業競争力委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)」発足の際、「なぜヒューレット・パッカード社のJ.A.ヤング氏を委員長として本委員会に招き入れたのか?」ということなのだ。少し本企業の歴史的背景にふれてみたい。
当社は1939年にビル・ヒューレットとデイブ・パッカードにより設立され、当初の製品は電子機器のレジスタンス・キャパシタンスオーディオ発振器(resistance-capacitance audio oscillator、HP 200A)とされ、後の1940年にウォルト・ディズニーによりその製品を用いた革新的な映画「ファンタジア」に採用されたことを皮切りに飛躍、1963年には日本法人(横河・ヒューレット・パッカード)を設立、その後数多くの技術革新を成し遂げ、1972年にHP35(ポケットに入る電卓)の開発により市場を圧巻、
またこの時期に強みである「データ処理技術」を軸にコンピューター分野に進出、1975年に社内規格であったHP-IB(GPIB)がIEEE (Institute of Electrical and Electronic Engineers: アメリカ電気電子学会)によって承認され、国際標準規格となっている。HP-IB(GPIB)とは、パソコンのような装置と計測器を接続するために用いられ、現在においても多くの計測器が本インターフェイスを搭載している。また、1970年代には売上10億ドルを超える大企業へと成長している。
ここから言えることは、まずヒューレット・パッカード社の製品は「製造業」に区分されること、そして技術革新によるデータ処理技術により生み出された製品は市場を独占する地位を築き上げ、またそれら技術は汎用的であり、後に「通信機器業界」においても「業界標準(デファクト・スタンダード)」を
創り上げたということである。
これら歴史を時系列に整理すると、「技術革新による製品」は既存市場に新たな市場を生みだし、またそれら製品は留まる市場不況への大いなる売り上げ貢献と共に、デファクト・スタンダードによる市場優位性を創り上げる素となる存在であることを強く、現実的に世に知らしめ、アメリカで起る状況(貿易赤字の拡大、製造業の世界輸出シェアの減少と収益率の減少(オイルショック等による外部要因含む)を救う光のような存在としてアメリカ政府は認識し、また成功がそこにあると見出し、その動きに拍車をかけるため、その「成功モデル」を創り上げたヒューレット・パッカード社から委員長としてJ.A.ヤング氏を「大統領産業競争力委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)」に招き入れることで、「成功モデルの量産」を目的としていたと仮説立てることが出来るのではないだろうか。

ではアメリカ政府のその後の動きはどのようなものであろうか。
やはりクリントン大統領政権下においても、「国内経済再生」は最重要課題の一つであり、1993年における「NII(情報スーパーハイウェイ構想)」がその具体策にあたる。この政策は情報産業の発展を目的として発表された構想であるが、要約としては家庭、企業、政府等をネットワークで結ぶことによる「ネットワークによるシームレスなコミュニケーションの実現」である。ネットワークによって商取引、医療、学習、公共サービス等の物理的な時間、コストを簡略化、省略することによって、消費者の最終意思決定(購買意思決定等)を早めるといった内容であると解釈できる。

以上を踏まえると「ヤング・レポート」における内容、「バイ・ドール法 1980年(特許・商標改正法)」や「Small Business Innovation 1982年(中小技術革新研究法)の成立」等の法案の制定等によって、アメリカの当時の「成功モデル」とも言えるヒューレット・パッカード社のような事例(高い技術革新によりデファクト・スタンダードを創り上げ、高い収益率を確保していく仕組み)を量産させるための政策(政府投資、知的財産権の法整備等、投資減税)を推進し、そして「メイド・イン・アメリカ(1989年)」に見られた生産過程、生産工程の徹底分析により見出された「スピーディーな生産による生産性の向上」により上記改革をさらに促すことで、さらなる収益モデルの改革を実現させ、その流れの中で成長を遂げた「通信技術(情報技術」を活用した「コミュニケーション方法の革新」により、消費者の最終意思決定(購買意思決定等)を早める産業モデルを創り上げることでアメリカ経済、産業をスピーディーに回転させていくというような革命を起こしてくというようなストーリーが見えてくる。

やはり当時の課題は「製造業の立て直し」を基に政策が練られていたので、「製造業」に区分されるヒューレット・パッカード社は、まさに当時のアメリカの「お手本」「救世主」のような存在であったのである。そして政府はいかにその収益率を補助していくか、いかにそのような成功モデルを量産するか、いかに技術革新を生み出し続ける仕組みを創ることが出来るのか等、産官学の横軸に通る串のようなコミュニケーションが求められていたのだ。
ここにアメリカにおいて「インフォメーション・テクノロジー(IT)」が大きく拡がったきっかけがあると著者は考える。

なぜならば、先に述べた「生産工程、生産過程における無駄等」の「生産にかかる時間コスト」は、「時間コストの観点」から「生産性を減少」させ、「最終意思決定(購買意思決定)」の「コミュニケーション(産官学の横串、企業内縦串、対消費者)にかかる時間」は、「スピーディーな経済の回転の阻害する要因」となるからだ。つまりアメリカは、あらゆる場面におけるコミュニケーション方法において、その中に存在する阻害要因である時間的コストを簡略化、省略化させることで賛成を向上させ、スピーディーな経済成長を目指したと考えられることから、物理的なコミュニケーションが持つ「時間的、空間的コスト」を「インフォメーション・テクノロジー(IT)」が持つシームレスなコミュニケーションよって、それらを克服していこうという背景とその必要性が、アメリカがおかれていた状況を歴史的にひも解くことで流れとして理解できるからである。


6.ITがアメリカ産業に与えた影響



 今まで著者はアメリカにおけるコミュニケーションの革命の必要性とその背景、そして「IT」への繋がりを論じたのだが、ITがアメリカ経済に具体的にどのように影響を与えていったのかということに焦点を当て、論じていきたい。
クリントン政権下、具体的に「IT」の推進により産業を再構築させていくという政策がなされていったのだが、では産業にどのような影響を及ぼしたのであろうか。


労働生産性の国際比較 日本生産性本部
http://www.jpc-net.jp/annual_trend/annual_trend2014_3.pdf

上記アメリカの製造業の労働生産性のグラフの中で、1993年クリントン政権下の政策はその当時具体的に表れているかといえば、それほどの飛躍は受けられない。但し2000年から急激な飛躍が確認でき、200年初期には他の6カ国と並び、最終的には2012年にトップになっている。その政策には時間を要したという結論であろうか、もしくはその当時ITを使用した生産性の向上は、それほどまで効果を及ぼさなかったということであろうか。
著者はここで「収穫逓増」という概念を使用したい。つまり初期投資の額は大きくとも、顧客拡大や後に得られる利益によりコストは回収され、さらには低費用のコストにより収益率が大幅に改善されていくという長期的、投資的考えであるが、生産性を計算する上では大きく、「産出量÷投入量」といった方程式が使用されるので、投入量にはコストが勿論含まれる。それ故に初期投資の費用が大きい程、生産性は高まりにくいという傾向をもっている。そのように考えると、2000年辺りから回収時期が始まったとも言えるだろう。

日米のIT投資額比較(参考)経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/it-keiei/about/doukou.html
さらにITに関する投資の日米比較グラフを見ると、先ほど「収穫逓増」という考え方で長期的、投資的な収益率の増加を図る戦略を少し述べたが、アメリカは更にIT分野に投資額を増加させている傾向がみられる。ここからIT産業に更なる拍車をかけていくというアメリカのメッセージとも受け取ることが出来る。先ほどのグラフにおいては、製造業の生産性という広義で見たため、具体的に「IT投資をしたことによる生産性」はグラフの中に隠れてしまっている。それ故にIT投資以降の生産性への影響も見てみたい。また具体的にIT投資をしたことによる産業の変化はどのようなものであろうか。



アメリカとEUの産業別労働生産性上昇率 内閣府 政策統括官室(経済財政分析担当)
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh04-01/pdf/sh04-01-01.pdf
グラフ中にある「IT生産産業」とはIT関連機器の開発、販売を事業としている企業を意味しており、
ここからIT産業の生産性は1990年代初期に比べ後半へと飛躍している。一方で、「IT利用産業」とは「IT関連機器の開発、販売等を行う企業ではない製造業、そしてサービス業」の2区分である。ここから、1990年代初期よりも後期にかけてIT生産企業の製造業の生産性は増加し、IT関連サービス業の生産性は低下している。また「IT利用産業」における「製造業」は、特にこの時期に上述したような状況下にあり、改善、改革を余儀なくされた産業ではあるが、むしろマイナスがプラスとなっているという大きな変化がある。そしてさらに「製造業」以外の「サービス業」においても、ITを利用することで生産性を高めている。次に「非IT関連産業」とは、ITに関連する企業ではなく、さらにITを利用していない産業のことであるが、グラフ上「生産性の向上」はほとんど見受けられない。
これも上述したが、生産性の方程式として、投入量÷産出量であるから、初期投資が回収され、利益を1990年代後半より生み出していったという見方が存在するが故に、1990年代初期の生産性を投資が低下させているという見方もあるのだが、「非IT関連企業」の項目から比較できるように、「ITを利用する方が確実に生産性を高めている」ということが出来る。さらにこのグラフから「ITを利用した非IT製造企業よりもサービス業におけるITの役割」が非常に高くなっているということも着目したい。
ITは製造業に留まらず、他産業へと広がりを遂げ、各産業の生産性の向上に寄付しているのだ。
これは通信技術の発達によるTCP/IP(通信プロトコル)の拡大とそれに伴ったISP(インターネット・サービスプロバイダー)の出現が今日のでも多く使用される「インターネット」の環境整備と拡大が、
「ネットワークによる商取引」のための環境整備作りを後押ししていったと思われ、さらに1995年のマイクロソフト社による「Windows95 OS」の発売により、パーソナル・コンピューターの市場への普及を一気に促したということが出来る。それまでは「ワープロ」と呼ばれる、家庭においては「文字を打って印刷する」ためのツールとしての普及が主であったが、圧倒的にユーザーの視覚的な使用にこだわったGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)を搭載したOS(オペレーションシステム)により、
コンピューター製品はエンジニアのためのツールではなくなり、より一般的な通信技術を搭載した家庭機器と変化を遂げ、新規市場を開拓し、製造業、ITへの売上へ偉大なる貢献を果たしたと言える。
また先の流れから「デファクト・スタンダードたる状況を創り上げ、特許により更なる収益保護、確保を知的財産の観点から行った」という観点からも、この事象もアメリカが求めた「成功モデル」の一例であると言えるだろう。

これら一連の動きが、アメリカが当時陥っていた状況に歯止めをかけ、さらには市場の拡大にも大いに寄与し、アメリカの産業を新たに構築していったと著者は解釈する。


7.ITの重要性の拡大



さらにアメリカでITが経済に与えた影響を考察する上で、ITがどれほど産業と密接に関わっているのかということを論じる必要がある。つまりITが技術としてだけ終わってしまうのではなく、いかに産業と結びつき「収益化」を図るツールとして役立てることが出来るのかということだ。


会津大学長 野口 正一氏による講演記録より(データはMITI Andersen Consultingによる)
http://www.zencom-inc.co.jp/sat/2000evnet/pdf/sat_02_noguti.pdf

インターネットが普及し、「ネットワークによる商取引」が可能になった中で、上記グラフはいかに日米間で「ネットワーク内商取引」が「B to B、B to C」市場で活用され、売上へとつながっているのかという日米間の比較(1998年~2003年)であるが、圧倒的な差異がここで確認できる。特に「B to C市場」における差は歴然としている。
なぜこれ程まで差異が生じるのであろうか。
先ほど述べたアメリカの「知的財産による保護」、つまり圧倒的な開発を促進するための企業への政府による投資によって、ネットワーク技術が商取引を行えるレベルまで整備された等の理由も考えられるのだが、アメリカがいかにITを産業に活用し、収益に繋げているのかということを考える指標にもなるであろう。ここで考慮しておきたい点は「B to B」とは勿論企業間の売り上げということになるが、最終的に「ネットワーク内商取引」を行った企業が「B to C」の企業である可能性もあれば、そうでない可能性もある。但し、「B to B」市場での売り上げが拡大しているということは、アメリカにおいて企業がITを活用した事業活動を行うという比率が増えているというこの現れであると同時に、またそれら技術は求められているという見方もできるということだ。

さらにアメリカの企業内のITに対する認識としては、内閣府が発表した年次経済報告書(平成19年度)の中で見られる傾向として、企業内「CIO」の存在によるITの徹底的活用が考えられる。
「CIO」とは企業におけるITの総責任者であり、経営の幹部を担う役割を持った役職だ。アメリカにおいては1990年代後半から本役職を育成するためのカリキュラムが大学内で組み込まれるほど、「ITをいかに活用し、生産性を向上させることが出来るか」といった観点で人材の育成に力を注いでいる。
そして、次に「企業の組織体制」がある。これはITを使用することにより「企業の業務プロセスがデジタル化されているのか」、「情報の共有や交換が進んでいるか」、「意思決定の分権化が進んでおり現場に権限が委譲されているか」等の項目があげられ、つまり「組織内プロセスのデジタル化による無駄(時間、コスト等)の極力の排除」と「組織内情報共有体制の整備による暗黙知の形式知化」、「スピーディーな意思決定の実現」を目的とした生産性の向上に目的があると言える。
ここからも「4.アメリカの対策」「5.アメリカの製造業の躍進」で述べた一連の流れによる流れが見受けられる。つまり、「スピーディーな生産による生産性の向上」と「通信技術(情報技術)=ITを活用したコミュニケーション方法の革新」というキーワードの結びつきである。
ここからアメリカの企業内における「IT」活用の背景には、「いかにITを利用し縦横のコミュニケーション方法を革新(組織体制作り)するかによって、無駄(時間、コスト)を省略し、よりスピーディーな最終意思決定を促し、それを可能とすることで、生産性を向上できるのか」といったことが鍵となり、それにより収益が異なってくるという法則のような考え方が根底に存在しているように見える。


8.躍進の背後で成長した脅威



2003年には、「Council On Competitiveness(米競争力評議会)」から、IBM社のパルミサーノ氏による「Innovate America(パルサミーノ・レポート)」の発表である。この内容は「イノベーション」というキーワードが軸となっており、またその緊急性を説いている。当時の世界的な経済の動きをマクロで捉え、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)といった人的資源の強み(低コストでの大量生産)持つような国々の「脅威」に対する危機感の醸成を仰いでいる。先に述べたように1985年の「ヤング・レポート」、1989年の「メイド・イン・アメリカ」の流れを受け継ぎ、技術改革のための政府支援、法整備、マーケティング、そして「IT(通信事業)」の発達とそれらを取り巻く環境整備、市場開拓、製品開発により、着実に成功への道を築き歩み始めていたように見える中、その環境内において発表されたレポートである。
「イノベーション」という言葉に軸を沿えていることに着目すれば、本レポートの中では「社会的、経済的な価値創造を実現する“発明と見識”の融合」と定義されており、研究活動そのものの在り方、人材育成といった範囲までの抜本的見直しが指摘されている。またパルサミーノ氏は「経済におけるブーメラン効果」ということの危惧を本レポートで訴求している。
基本的な意味としては、「海外への投資により現地生産を行うことによってコストを削減し、収益率を高める戦略を取った反面、現地生産の技術が増加し、製品の市場価値が増し、競合相手となることで、市場においてカンニバリズムが起ること」と著者は解釈しているのだが、具体的にはどのような状況にあったのかを考察したい。
実はそれらを論ずるためには再度時系列を前後させる必要がある。
著者はこれまで述べてきたよう、アメリカがおかれたていた状況からそれを打破するための改革推進とその内容について述べてきた。しかし、その背景で着実に育っていった「脅威」が存在していたのである。


日本銀行レポート/米国の製造業における 1980 年代~90 年代の経営改革
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron150309a.pdf

上記グラフは2000年~2013年までの各国の「製造業における海外投資収益率」であるが、アメリカがトップとなっている。
また下記グラフは特許による占有率(1991年~1998年)であるが、アメリカ政府による既述の法整備、改革推進もありトップとなっている。


http://www.dbj.jp/reportshift/report/research/pdf_all/67_all01.pdf


日本銀行調査統計局2015年3月発表 
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron150309a.pdf

上記は「3.アメリカの製造業」において使用したグラフであるが、その説明としては「輸出シェアは右肩下がり」にも関わらず「収益を回復させる傾向」にあるので、著者は「製造業の収益回復化」を結論とし、そしてそれは「ヤング・レポート」の流れを踏まえた政策の成果であると。
そして次のグラフを見てみる。

日本銀行調査統計局2015年3月発表
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron150309a.pdf
上記はアメリカの製造業における1980年代から1990年代周辺の大企業の動きを表したものであるが、
掲載企業における全てに共通することは、ある事業を縮小し、ある事業に統合させる、ある事業を手放す等の不採算事業の撤退による「選択と集中」による経営を推進しているということである。
そして更に次のグラフを照らし合わせる。

IMF, Balance of Payments Statistics Year book, 1981~2010
これはアメリカの海外直接投資率であるが、1986年からそして1991年、そしてその後も圧倒的に海外への投資率を増加させていることがわかる。

これらグラフから、著者は1980年代のアメリカがおかれた状況下で、「ヤング・レポート」に見られたような政策推進(既述)に始まる流れからアメリカの製造業における収益率の向上を論じてきたが、製造業における収益率を高めた要因としての推進された政策の中で「選択と集中による不採算事業の撤退」が含まれているのと同時に、生産拠点を海外シフトさせ人員コストを削減させることにより、収益率の改善を計っていたのだ。確かにそれにより収益性が増加してはいたが、それは「価値を上げた収益率の向上」ではなく、「生産拠点の海外シフト」による「コスト削減による数字上の側面を持っている」と同時に、「海外投資収益率が高い」のは1986年以降の急速な海外生産シフトの傾向による「多量多産」を、
政府も加わり推進してきた「特許戦略」により守られることで、「厚利多売モデル」を目指すような収益性を確保への試みであるが、勢いのある海外生産拠点シフトによって、生産側国が生産工程、過程、ノウハウ(経営全般だと著者は考える)を学習した「脅威」となる現地企業の出現を同時に加速させ、「製造業の輸出シェアが右肩下がりに減少」を伴ったブーメラン効果を生みだし、大きな危険要因となる「競合」を創り上げたのだ。
そこに「パルサミーノ・レポート」の「イノベーションの革新」の内容であった「社会的、経済的な価値創造を実現する“発明と見識”の融合」の定義と、「研究活動そのものの在り方、人材育成といった範囲までの抜本的見直し」への指摘は、「一つの成功モデルが永遠に続く時代ではない」ことから「イノベーション」を加速していく、生み出し続ける仕組み作りが必要であるというメッセージの訴求と、「ブーメラン効果」への言及は、「成功モデル」とされた裏側をあぶり出すことによった、「行動」の背景には「何か」が同時に生み出されているという事実の共有と同時に、更なる先見の明の必要性を危惧しているのだと著者は考える。


9.IT産業の向かう先



では「IT」ということに絞ると、それはどこに向かっているのだろうか。

先述のようにアメリカの産業形態は大きく変化を遂げ、それに伴い組織形態までも、コミュニケーションの方法(ITによる組織プロセスのデジタル化、シームレスでスピーディーな情報共有*7ITの重要性の拡大先述のようにアメリカの産業形態は大きく変化を遂げ、それに伴い組織形態までも、コミュニケーションの方法(ITによる組織プロセスのデジタル化、シームレスでスピーディーな情報共有*「7.ITの重要性の拡大」参照)の方法までをも「IT」に頼る傾向に向かっている。そしてCIO存在によるIT事業の管理により、更に「生産性の向上」を「IT」に頼るといったことも考えられる。
それ故にアメリカは、国内で「強み」へと変化を遂げた「通信産業」が生みだした「IT」の技術革新による市場の新規開拓、顧客の確保、産業の更なる拡大は国内市場の経済への貢献に期待を強く抱いているのだ。

「ITを基としたシステム」を骨格として事業を動かしていく企業が増加傾向にある中で、消費者の観点から得られる便益も含め、それらはどのように変化していくのだろうか。そしてどのような産業として創りあげられていくのであろうか。

先ずは先ほども見た「ネットワーク内商取引市場」である。
アメリカの商務省の発表では、アメリカの2012年消費者向け市場規模は、前年比15.8%増の2255億ドル(約22兆5000億円)となり、小売売上全体に占める割合(EC化率)は5.2%と前年比0.5ポイント上昇と、「ネットワーク内商取引」に増加傾向が見られ、また市場規模の増加比率は著しい。
ここでアメリカの「ネットワーク内商取引」を行う代表例のビジネスモデルの例に少しふれたい。

1. Google 

「無料で世界の情報を検索できる」という革新的なサービスを打ちたてた当社は、「広告収入」を収益の源としているが、あくまでもインターネット上で検索されたくない情報があるとしても、他者により情報がアップされれば消去はたやすいことではないが、当社は「情報の自由性」を訴えている。ここで論じるべきであるのは「世界の人間が、世界の情報を無料で手に入る環境を作り上げた」ということであろう。それにより、インターネットによる情報検索の必需性は格段に高まり、それにより「人が集客する場」をも築き上げ、後のインターネット上で事業を行う企業の参入の窓口を広げたということだ。
2014年第4四半期(10~12月期)決算は、売上高は前年同期比15%増の181億300万ドル、提携企業に支払う手数料(TAC)を除く実質売上高は144億8300万ドル、純利益は41%増の47億5700万ドル(1株当たり6.91ドル)の増収増益となる企業へと成長している。



2. Amazon.com

1994年創立の当社は、インターネットを通じ「書籍」のネットワーク販売を率先、整備し、当時の物理的な店舗を持つ企業が抱える課題の一つである「物理的店舗では抱えておくことが出来ない在庫」の課題をクリアにすることで、圧倒的な支持を得て大企業へと変貌を遂げた企業である。(現在は多種の製品
を取り扱っている)
ここで押さえておきたいことは、「Google」のような企業がサービスすることによる「プラットフォーム
」が開かれたことが大前提で成立している事業であるということだ。但し、自社で在庫用、配送用パッキングの工場を持っていることから、「物流産業」におけるイノベーションであると言っても過言ではないだろう。現在は、自社のKindle製品(電子書籍のみの販売で物理的な書籍ではないために破格で提供できるサービスと共に、自社タブレットの関連性を付け加え販売している)がある。当社の2014年度売上高は889億ドル。およそ10兆7,000億円規模になる。

3. Apple

スティーブ・ジョブズで有名な本企業であるが、何故この場の事例で掲載しているのかと言えば、当社の主力製品である「Mac」「I-Phone」はハード機器であり、製造業においてはその使いやすさ、ビジュアルへのこだわり、プラグイン型ではない仕様等から、全く別物のパーソナル・コンピューターを創り上げ本製品を使用することによるデザイナー等のクリエイティブの職種化、市場拡大に貢献したということもあるが、ITという観点で見ると、その製品を入口に自社の開発のブラウザである「Safari」を搭載させ、Googleに見られた「広告収益」というビジネスモデルをも同時展開しているということだ。また売り上げは全体の1%と低いものの「i-tune」等の音楽のデジタルダウンロード市場の普及にも成功し、ハード面とソフト面の双方の連携によるサービスを提供しているということに着目したいからだ。また2015年度第2四半期の業績における売上高は580億ドル、純利益は136億ドルとなっている。

上記3社の例だが、著者が考慮したい点は、ITサービスを利用したビジネスモデルでありながら、
Googleに見られたITにおける技術革新を素にインターネットという空間を「無料の情報提供場所」としてのサービスを利用することで、インターネットを使用する消費者を拡大した企業。そしてAmazonに見られたように、インターネット普及によって成立し、窓口はインターネット、仮想空間が持つ特異性(例えば、「求められる書籍があるかを瞬時に検索できる」「物理的な制約を伴わないトワーク上での在庫書籍の確認が出来ることと、それがクリック一つで手元に届くこと」)等を利用し、「書籍」というハードを販売する企業。そしてAppleのようにハードを入口にソフトでも売り上げを図る企業。
上記のように大きくプロット出来るのではないだろうか。
IT技術革新企業 IT利用企業 入口 製品 チャネル
Google
ソフト ソフト インターネットのみ

Amazon ソフト ハード 在庫、パッキング工場
Apple ハード ハード・ソフト 世界中のApple支店
これらか言えることは、技術革新型でのみでの売り上げはそこまで高くないが、それを使用し産業化するスピードの上昇、それに伴った人材の育成、そしてIT技術を使用したソフト、ハードの両面からのアプローチにより「ITの利用率の拡大」、ひいては「IT産業の拡大」にも寄与し、アメリカ国内だけでなく世界における競争優位性を持つビジネスモデルとなる、そしてこれが求められている「イノベーション」の内容なのではないだろうかと考える。先に見たアメリカの産業への投資額も理解できるように
産官学の連携を通じ「技術革新」に力を注ぎ、そして同時にそれらを産業化できる人材育成に力を入れていく。そしてパルサミーノ氏が唱えたイノベーションは、上記を生みだす「スピード」であり、そのための抜本的な「研究開発の方法」「人材育成」の改革であるという理屈も納得がいく。

そして現在においては「クラウド技術」が普及を拡大している。2012当時は現アメリカ大統領オバマ氏がAmazonの提供するクラウドサービスAWSを使用し、「データを一元管理した」という情報筋も存在しているぐらいだ。また2014年にはアメリカ国防総省においてもクラウド利用が許可されている。
上記のようにクラウド技術の持つ利便性として「物理サーバーを持たないことによる莫大な情報を保管していくことが出来る」という特性があげられるが、アメリカ企業はその特異性を活かし、生産性向上のために各位たゆまぬ努力を重ねていることが想像できる。クラウドソーシング企業であるoDeskの社長であるスワート氏は、2020年までには世界の3分の1の人口は当社が担っていると豪語しているが、
クラウド技術の仮想空間による情報の管理スペースの広さから、数え切れないほどのアプリケーションインストール、その仮想空間内でおいての物理的制約を伴わないシステム構築を可能とするために、セキュリティへの危惧は多くあるであろうが、物理的な制約を伴わない空間の中に様々な情報がインプットされ、情報は増大するとすれば、それらを蔽うクラウドサービス提供企業の優位性は高まり、新規企業の参入の難しさは一層増すであろう。また同時にクラウドソーシング等のサービスを利用するオンラインワーカーの増加拡大に伴い、またあらたな産業がそこで生まれてくることでもあろう。ステークホルダーへのコミュニケーション方法という点においても革新的であり、「イノベーション」の一事例であることは確かだ。

そしてマイクロソフト社のようなOS Windows95のGUIの革新によりパーソナル・コンピューターの普及拡大に大きく寄与した企業による「クラウド技術」と自社のソフト技術を組み合わせた「Windows Azure」も例にあげられる。本製品は、当社が今まで行っていた「Serverを開発し、他機能、サービスを付け加え販売する」といった開発工程における川上から川下の工程数を減数させることで、ユーザーに設定に裁量を託したVPN接続も行えるというマイクロソフトの強みであるGUI開発技術を使用した「プラットフォーム(各種設定画面)」と「クラウドサーバーの利用」を組み合わせた製品となっており、Frame-relayやPPP接続のコスト高から「インターネットの普及」によって現れたVPN技術を利用した製品だ。但し、本製品はあくまでもシステム担当者やITに関する基礎知識を持っている企業の担当者や、本製品を使用したクラウドサービスパッケージ販売の企業向けであると言ってもよいだろう。
なぜならばVPN接続の際のACL(アクセスリスト)の設定までをもユーザーで設定できるからだ。
勿論Switchがあればその上でセキュリティを搭載したり、ISPルーター側に搭載したりするのは、あくまでもISP側なのだが、Internet‐VPNによるデータはVPN Gatewayやルーター上で設定できるinterfaceに設定した範囲以外は、インターネット内に情報がある状態においてはどこに情報が飛んでいるのかが見えない。ここから昨今ITにおけるセキュリティの惰弱性や、ハッカーによる攻撃が危ぶまれる中において、CCIE Security等の高度なセキュリティ資格を持たないエンジニア、もしくは上記のような技術的情報を何も知らない消費者がInternet VPNをさわることは危険を孕んでいるのである。

アメリカにおけるITを使用した戦略で見えてきたことは、先に述べたように「いち早く技術革新を生みだし」、「いち早く産業化への結びつけ」、「いち早くその技術の特異性を利用した企業の参入を促し」「ソフト、ハードを連動させるか」もしくはである。「ソフトとハードの連動」は事業活動の内容によるものなのだが、アメリカ産業全体としてみると、政府が求めるのはやはり企業規模の拡大による売り上げ、収益率の増大であろう。「ソフトとハードを結びつけることが出来る企業」の方が好ましいのである。
但しこれは議論の致すところであり、上記のような企業が現れ市場が整備されたことで、ソフトだけでも十分な収益を見込めるような企業が現れてくるという時系列の問題も孕んでいるかもしれないが、著者はマイクロソフトによるWindows Azureの例からも見たように、「製品という概念を変え、開発工数を減らしユーザーにプラットフォームだけを与え、権限と責任をユーザーの裁量に任せていく開発モデル」はいくら「生産性の向上による製品化への時間的、直接的コスト短縮」が重要であるとはいえ、なかなか納得が難しいと同時に、企業もセキュリティ管理が困難になるのではないかと考える。昨今アメリカ、オバマ政権においてアメリカ政府職員400万人分の個人情報が盗まれるというハッカー事件があったが(犯行元とされる国名は伏せておく)、いくらそれらが犯罪であるという法整備を整えても、こういった「国境を超えた姿なき攻撃」は国間の問題、関係、そして法律を含んでいるため、なかなか取り締まりの強化が難しいとされている。ましてやモラルたるもの「所変われば神様も変わる」なのである。
このような環境において、セキュリティ惰弱性が懸念される製品を商品化することは、その半面で「危険因子の醸成」につながる危険性の可能性があるということをユーザー側が学ぶことのできる環境を企業が率先して育てていく必要性も同時に存在していることは確実だ。


10・まとめ



著者は本論文において、なぜアメリカがそれまでITを使用することに重きをおいて、産官学の連携によって推進してきたのかを、歴史的な観点から考察し、そしてひも解いてきた。また「イノベーション」の必然性ということについては、背後に隠れている、産業を取り巻くシステム、そして市場環境の変移よることから見出してきたのだが、アメリカがいかに「スピード性を備えた経済の成長」を根底に強く産業を回転させようとしているのかといったことも共に強く理解できた。
その中で、著者が感じたことは、「スピード性の追求の果てに在る人間の存在」である。強い資本主義思想、強いマネーイズムにより、もたらされる「人間の幸福」という形でさえもその中で定義され直し、提供されるといったスパイラルは「経済効果」を期待できる指標とされ、マーケティングされ、次なる事業活動のための糧となる。しかし、めまぐるしく変わる環境に適応する人間の能力ははどこまで対応できるのであろうか。また、グローバリズムが当たり前になり、世界規模で経済における生産性の向上に熱を注ぎ、新興国も経済力、競争力を付け、フラット化されていく社会の中で、何を持ってして自国民の生活水準が上がるということなのだろうか。それは欲しいものを欲しいだけ購買できる金銭的能力の向上なのであろうか。いやそれはそうではないと著者は考える。なぜならば何人の日本人が昨今みる中国人による「爆買い」とされる行動に笑顔でうなずいて、感謝の意をのべているだろうか。あくまでも中国人に対する性質やその行動を非難するものではなく、「経済が回転する」ということだけに目を向けては、「感情」という人間が持つ本来の感覚は二の次になるであろうということなのである。
これらはあくまでも「経済」に目を向けて話をしたが、「IT」の持つ特性と「アメリカが求めるスピード経済成長」の掛け合わせの背景に潜む落とし穴にも同時に目を向けることが重要な鍵となる可能性があることを著者は示唆している。つまり「IT」の持つ技術の適用範囲は広く、そのコミュニケーション能力は本来の人間が長い年月をかけて築き上げたコミュニケーションの領域を超えてしまったのだ。それを「技術革新」とし、資本主義下で様々な企業が新規ビジネスチャンスとして事業参入し、それらを産業として昇華させ、経済を成長させていく。そして「スピード」を重要視したアメリカのような戦略は、「そこに事業チャンスはあるのか」という判断だけが合理的材料となることを加速させる。
日本は今「超高齢化社会」への変貌を遂げている。それ故に企業がターゲットする先は65歳以上の高齢者であることも多い。同時に生産年齢が減少している対策として「いかに生産性を飛躍的に向上させるのか」といったことを念頭にITの活用を各国よりも真剣に考えなければならない時期は既に来ているとも考慮できる。
「IT社会がアメリカ経済に与える影響」は革新的あり、各国もそれをモデルとしていることは否めない。
しかしこれからは各国、特に先進国は国内状況に真摯に向かい合い、それにより自国に合ったITの活用法を推進していくべきであり、アメリカのように法整備を整え、生まれたビジネスを保護していくことで、「スピーディーだけではない」細部にも目を向けることが出来、その中で有用性のあるであろう技術に投資を行うことで技術革新が生まれ、それらが産業化され、市場が広まり、世界の中においても競争優位性を図ることができる産業産出の足がかりとなっていくのではないだろうか。


参考文献一覧



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